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それからいまに至るまで紆余曲折があった。友人はこころよく彼女をゆるしてくれた。もとより恨んでなどおらず、というのも、友人は彼女などよりもよっぽど精神的にすすんでおり、自身にも過去にたような経験があり周囲に迷惑をかけたことから、彼女の乱調にも冷静でいられたのである。
しかしそれにしても、その時の彼女の涙と、「……、でも、このまま絶交になっちゃたらどうしようっておもった」という言葉は、いまでも彼女のこころに棘を残している。
この一件はますます友人間の友情をふかめ、また逆に人間の情のはかなさをも彼女におもいしらせることとなった。
最初に告白してきたのはあちらなのに、好きになるのも勝手なら熱が冷めるのも勝手ということだろうか。いったい、愛する者というのは熱しやすく冷めやすいものなのだろうか。
彼女は坂をのぼりきり、平坦な道にでた。太陽はまだ中天に赫奕と輝いている。坂道まででちょうど日脚はとぎれており、そこからしばらく、屋陰や緑蔭が地面に複雑怪奇な唐草文の絨毯を織りなす民家の間の細道を道なりに進んでゆくことになる。
歩きながら、彼女の顔色はすぐれない。いまだに心の整理はついていない。まさか、彼に限って、というおもいとともに、裏切られたという確固たる落胆が、彼女の心内でせめぎあい、じわじわと心を底の方から浸食してゆくようだった。
その時電話が着信を告げた。みると彼からである。彼女は無視して日傘をもち直し、また黙々と坦々たる道に視線を落とした。
電話はあえて着信拒否にはしていない。しかし絶対にでない。そうやっていつまでもでるはずのない電話にコールし続けていればいい。
いまにしておもえば、彼がたまに電話にでないことがあったのも、そういうことだったのだろうか。彼とは大学がちがうから、仕方がないことだと諦めていたが、しかしそれもこれもがすべて彼の背理だったかとおもうと、やむにやまれず、またむかむかと一度おさまりかけていた怒りが積乱雲のように急激に膨張してくるのがわかった。
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