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新橋烏森口
というわけで、真理子は霜井に頼んでお好み焼きを食べに来た。霜井と待ち合わせた新橋駅の、烏森口を出てすぐの路地を入っていく。綺麗な街では無い。雑然として、不衛生な印象。こんな時間でも鴉がいる。土曜の昼の二時過ぎとあって、人の姿は疎らだ。しばらく歩くと、紺の暖簾に白抜きで「かせん」の文字。花仙なのだろうか。間口は狭いが小綺麗な店だ。やけに愛想の良いおばちゃんに、さらに愛想の良い笑顔の霜井が声をかけると、小上がりに通された。何も言わないのに、さっさと飲み物を運んでくる。霜井の前には壜ビール。真理子の前にはラムネ。霜井はまず真理子のグラスにラムネを注いでくれる。自分のグラスには手酌でビール。
「代理。お酒、大丈夫なんですか」
霜井は黙って笑って見せる。グラスを持ち上げて、まずは乾杯。久しぶりのサイダーは仄かに甘くて、喉の渇きを潤す。おばちゃんは、やはり注文も聞かず材料を運んでくる。それに大きな鏝が一本、中くらいのが一本。真理子の前にも、小振りの鏝が一本。
「加藤さん。まず僕が一枚焼いて見せますから、憶えてくださいよ」
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