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起
田舎のホテルの宴会場には、すでに百人ばかりの同窓生が集まっていた。僕は真っ先にチビ六の姿を探した。壁際のグラスを積み上げたテーブルの脇に、いつものように一人で、チビ六が立っている。あいかわらず痩せた小さな体躯のチビ六は、やはり寂しそうにしていた。
「ひさしぶり。杉井」
僕が声をかけると、チビ六は嬉しそうに、顔をくしゃくしゃにしてみせた。
「ひさしぶり」
杉井とは、中学校卒業以来だから、五年も会っていない。それでも、彼は昔のままのように思えた。卒業後、塗装屋で働きながら夜間高校に通っていたが、仕事も辞め今ではチンピラの様なことをしている、という噂を聞いたことがある。けれども目の前にいるのは、いつもクラスで苛められていた、ひ弱で無口な「チビ六」だった。
「大学に入ったんだって。俺のような者には良く分からないけど、結構すごいことなんだろう」
たしかに、僕は一浪してどうにか今の大学に入ることができた。すごいといえばすごいのかもしれない。
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