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佐知子の部屋に向かう。別に恋人を気取るつもりはないけれど、妙に胸が高鳴る。部屋で静かにコピーを繰り返している反動なのか、運転が乱暴になる。タイヤが悲鳴を上げる。
彼女を拾い上げると、高速道にのってあてもなく走る。複雑な形に交差するどこか現実離れした道を、ひたすら巡っていく。深夜の流れは軽快だ。昼の渋滞とは別の世界。高架の上から、明るい夜の東京を眺める。こんな時間でも窓に明りのある、いくつものビルディング。下品な電光を放つ看板が、次々に飛んでいく。サラ金。不動産屋。何を考えているのか、屋上にブルドーザーが乗っているビルもある。タワーが青白い照明灯に浮かび上がっている。夏が来ている。くるくると回りながら高度を稼ぐと、橋を渡る。黒い沈黙の果てまで橋は続く。
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