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という短い返事があった。役に立ったのかどうか、よくは分からない。当面は、今の商売があるので、その後に考えるというところだろうか。こんな相談のメールは、その後もときどきあった。僕は、組織の参謀役になったような気分で、無責任に思い付いた提案を答えた。その都度、チビ六は
「ありがとう」
という返事と、少しの謝礼を送ってきた。全く顔を合わせないが、僕とチビ六は、昔のような親友に戻れた気がして嬉しかった。互いを必要にする関係は、妙な幸福感に溢れていた。
それからも、パスワード破りは続けられた。これは、ソフトの不正コピーを売るよりもずいぶん安全で、割りのいい商品らしかった。集まったパスワードの傾向を分析することで、より効率的なプログラムを作る。手当たり次第だった頃とは違って、今では、一晩に確実に20件は見つけることができる。ターミナルアダプタという接続装置を導入してからは、接続自体が速くなったこともあって、具合がいい。ぼんやりと、ディスプレイを眺めていると
「パスワードが違います」
という文字が流れていく。無限の繰り返しのうちに、うとうととする。もちろん寝てもいいのだが、つい様子を見たくなる。
「ピッ」
と短い音がして、赤い文字が表示される。「ログインしました」
自動的にパスワードが記録される。本当の持ち主の最終接続日付がずっと前なら、それは安全だ。当分気づかれる虞はない。見知らぬ人の財布から、僕のポケットに一万円札が瞬間移動する。
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