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昔、よく苛められていたチビ六を、助けてやった。数人に取り囲まれて、小突かれたり鞄を取上げられたりしていると、止めに入る。僕は体が大きい方だったし、柔道部の主将もしていた。それに何より、教師達のお気に入りだった。皆が僕にまで暴力を振るうことはなかった。そんなとき、チビ六は照れくさそうに、くい、と胸を反らすと。「ありがとよ」と言うのだった。
結局、その日、僕はチビ六とだけ話をした。僕にもチビ六にも、話し掛けてくる者はなかった。そんなものだ、僕らの位置なんて。それはそれで、気楽に思えた。散会した後も、僕はチビ六と別の店で呑んだ。何を話すのでもないが、二人でいると落着くのだ。
「なあ、小林。頼みたいことがあるんだけど。いいかな」
見上げるようにして言うチビ六の顔を見て、五年前の記憶が蘇る。
田舎のレコード店。僕はチビ六を連れて、カセットテープを万引きに来ていた。青い顔のチビ六は「やめろよ」と小声で繰り返したが、僕は、次々に商品を、チビ六の手提げ袋に詰め込んだ。
僕らは、店を出るところで、髭の店主に呼び止められた。後は、思い出したくもないことばかり。
「自分が一人でやったんです。小林は見て止めていたんだ」
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