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「……ごめん、大丈夫」
しばらくして、目と頬を赤くしたエデンがガイアの胸を押して離れる。
「エデン」
ガイアはまだ微かに濡れているエデンの目尻を指先でそっと拭ってやった。
自分の胸くらいまでしか背の無い、華奢な少女。
馬に乗せていた時もそうだったが、腕に抱くとあまりにも違和感が無い。遠い昔にこんな風に抱きしめていたことがあるような錯覚を覚える。
しかし、ガイアにそんな過去はない。
兵士として生きてきたガイアには妻も子もない。いつ何処の戦で果てるかもわからないガイアには、待つ者など居ない方が良いのだ。
「ガイア?」
涙を拭ってやった後、じっとエデンを見つめているガイアに、エデンは不思議そうな顔をする。
「不思議な感覚だ」
「不思議?」
「お前の事を遠い昔に知っているような気がする」
「……私が子供の頃の知り合いってこと?」
「いや、こうやって同じように涙を拭ってやった気がする」
「……それって、昔の恋人でも思い出してるんじゃないの?」
エデンは少し目を眇めて、皮肉げな笑みを浮かべた。
「いや、違うな。俺に恋人はいない」
ガイアがはっきりと言うと、皮肉げな笑みは一瞬で消え、エデンは少し泣きそうな顔に戻った。
「どうした?」
「……何でもない。少なくとも私はあの火刑台で初めてガイアに出会ったんだ。昔なんて……ないよ」
「……そうだな。ただ、そんな風に思っただけだ。それに」
ガイアは涙を拭った指の背で、もう一度、今度は少し雑にエデンの頬を擦ると笑って言った。
「こんな風に面倒を見てやるのはお前だけだ。エデン」
「っ!」
何気なく言ったガイアの一言に、エデンがぱっと頬を染める。
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