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「や、やめてよ。恥ずかしいなっ」
「そうか?」
照れてわたわたとするエデンがひどく可愛らしく見えて、ガイアはもう一度その柔らかな頬をつついた。
「さて、うさぎが逃げないうちに飯の支度をするか。俺も手伝うから」
「……うん」
「あと、次に狩に行くときは俺も行こう。俺がいれば鹿が狩れる。もし他にも行く奴がいれば猪を狩りに行こう」
「猪を狩ったら、捌くのもお願いしたいよ。私ではうさぎか鹿がやっとだから」
「ああ、任せておけ」
穏やかな笑みで微笑み合って、二人で食材を入れた籠をそれぞれ抱えると水場に向かう。
豊富に湧く温泉のおかげで、この砦の水場は水も湯も使える。
木の盥に水を汲んで野菜を洗いながら、エデンが少し萎れかけた葉野菜を水を払うようにぱっぱと振った。
すると、葉野菜はたった今畑から抜いてきたようにピンッと葉を伸ばし、心なしか緑も鮮やかになった。
「時間を召喚したのか?」
「畑から抜いたばかり位のころを召喚した。このくらいなら問題ないから」
「問題?」
「……時間っていうのはそんなに自由なものではないんだ。歴史は決まっていて、それを覆すことはできない。無理にそれを捻じ曲げれば、その反動で時間は帳尻を合わせようとする」
「…………」
「たとえば、この野菜は私たちに食べられることが決まっている。だから、多少時間を召喚して弄っても、結局最後は食べられるので変化はない」
「ああ……」
「でも、壊れたコップに、壊れる前の時間を召喚して直す。そしてそのまま使い続けると、壊れるという事実が捻じ曲げられるので、時間の反動が起こる」
「再び壊れるのか?」
「どんなことをしてもね」
予定調和。運命とでも呼ぶべきなのだろうか。
すべてのものの命運は決められ、それに逆らうことはできない。
「運命というやつか……」
「……もっと非情で冷酷なものだよ。私たちの世界は全て決められているんだ」
エデンの瞳にいつか見た暗い影が落ちた。
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