魔女と呼ばれた少女

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 旅の途中、俺は一人の少女と出会った。  少女は科学が主流になろうとしているこの時代に「魔女」と呼ばれ、コミューンの広場で火刑に処される寸前の時に俺と出会った。  魔女などと言う馬鹿げた迷信は、これからの世では信じられるべきではない代物で、誤解と冤罪の為に誰かが私刑の末に殺されることなどあってはならない。  俺は我ながら安っぽい正義心だと思ったが、気が付けば剣を構え、馬を駆り、燃え盛る火刑台に突っ込み、少女を奪うように抱きかかえていた。  鎌や斧などの農具を手に追ってくる村人たちを躱し、馬の足で一昼夜駆け抜けてからやっと馬を降りた。  追手の危険はもうないと思われたが、念のために距離を逃げたのだ。  その間、ずっと腕に抱いていた少女は、両足に酷い火傷を負っていて、腕の中にある体は怪我の所為か燃えるように熱く、その熱に魘されるように震え続けている。 火刑台で焼かれた足はずっと血の臭いをまき散らし、多分、もうその足で歩くことどころか、命を落としても不思議ではない状態ろう。せめて少女の火傷を清めてやりたかったのだ。  俺は少女を腕に抱いたまま馬から降り、自分のマントを脱いで地面に敷いて、できるだけ静かに少女を寝かせた。足の傷を検分すると、焼け爛れた足は生々しい傷口を露わにして酷い有様だった。 「大丈夫か? 少し、水で傷を清めるか?」  相当な苦痛だろうと思われたが、少女はゆっくりと体を起こし傷口を見ると、感情の籠らない抑揚のない声で言った。 「大丈夫、すぐに戻せる……」  そう言ってから、少女は直視に耐え難い傷に手をかざす。 「……これは……」  次の瞬間に俺は目の前で起きたのは、奇跡としか言いようのない光景だった。  傷にかざされた少女の手が傷口に触れる度に、まるで割れた陶器が元通りに戻る様に爛れた皮膚が綺麗になって行く。  俺はその様子をじっと見ていたが、それは魔法としか思えない不思議な光景だった。 「本当に魔法……なのか?」 「魔女なんて時代遅れだって言ったのは、あなたじゃないか」  少女は妙に大人びた仕草で笑う。 「でも、魔法って言うのも強ち嘘でもないかな。新しい時代が信じている科学ではまだ説明できない事だから」 「科学で説明できない?」 「多分ね」  そう言うと、少女は綺麗になった足で立ちあがる。
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