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服はひどく焦げているが、少女の身体には傷一つない。
「治癒の魔法なのか?」
「違うよ。足に傷がなかった時間を召喚したんだ」
「時間を召喚する?」
「私の足だけ怪我をする前の世界からここに呼んできたって言ったらわかる?」
言葉の意味は分かる。だが、それをどうやったら為せるのかがわからない。魔法ではないのか? ともう一度言いかけて、俺は言葉を詰まらせた。
時間とは過ぎ去るだけのもので、それが自由にできるなんてことがあるのだろうか?
「簡単に言えば私は時間が操れる。色々と制限はあるけどね」
少女は焼け焦げの煤を払うようにポンポンと体のあちこちをはたいてから、俺に改めて向き直って言った。
「助けてくれたのは感謝してる。お礼がしたいけど、見ての通り私は囚人だったから無一文なんだ。だから、今すぐには無理だけど……何日か待ってもらえたら、それなりにお礼はできると思うから、それでもいいかな?」
「そんな恰好でどうするんだ?」
「……何とでもなるよ」
「魔法を使うのか?」
「……あまり使いたくはないかな。疲れるから」
少女――見た目は完全に子供だ。背は俺よりも頭二つ分ほど小さく腕も脚も身体も細い。俺がひねり上げたら腕なんか折れてしまいそうだ。独り立ちして間もないか、まだ親元に居ても不思議ではないくらいの子供に見える。だが、その身体の奥には草臥れ果てた大人のようなものが透けて見える。
時間を操れるという少女は、もしかすると見かけ通りの歳ではないのかもしれない。
大人なのか? 子供なのか?
この少女を見ていると、何故か胸の奥がざわつく。
奇妙な予感のような、今、見捨ててはならないと誰かに言われるような……。
「俺と一緒に来い。そのままでは飯も宿も困るだろう」
俺は咄嗟に少女の手を掴んで言った。
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