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胸がざわつくと思ったら、もう声が出ていた。
このまま行かせたら、この少女はきっと死ぬだろう。
そんな予感が、俺に少女の手を掴ませた。
「俺の名はガイア。国境兵だ。お前は?」
「……エデン」
エデンと名乗った少女は、握られた手をじっと見ている。
「足はもう平気なのか? 馬に乗れるなら近くの村で馬を手配しよう。俺の行く先はまだ遠いんだ」
「馬は乗れない。移動は徒歩だった」
「そうか。ならば俺が膝に乗せて馬に乗るか」
「え? ……わっ!」
俺はエデンを抱え上げると、馬の上に座らせる。続けて鐙に足をかけ馬上に上がり、俺の胸にエデンの背をくっつけて座る様に抱いて位置を調整した。
「乗馬用の服を何とかしないとな。そのままでは尻の皮がむける」
「それは困るな。旅の装備はすべて奪われてしまったんだ」
少女が来ているのは粗末な布の服。かろうじて袖があるような簡素なものだ。しかも焦げて煤けてひどい有様になっている。
「とりあえず俺のマントを着ておけ」
肩にかけていたマントの埃を払い、それでエデンを包むようにしてかけてやった。
軽く腹をけると、馬は俺とエデンを乗せて再び歩み始める。
もともとスタミナのある軍馬だが、強行軍の後だ、ここからはあまり無理はさせられない。目的地までまだ3~4日はかかるだろう。
「この先の村まではまだ少しかかる。お前くらいなら寝ていても平気だぞ」
「……うん」
こうして二人で馬に乗っていると、いつもこんな風に馬に乗っていたような錯覚に陥る。不思議なくらいエデンの存在は俺に馴染んでいる。
やがて静かな寝息が聞こえてきて、エデンは眠ってしまった。
まるで、エデンもまたこうしている事が自然であるかのように。
(おかしなこともあるものだ)
俺はエデンを落とさぬように、起こさぬように、静かな夜の森の中を馬を進めて行った。
これは、今から昔、魔法と迷信の時代が終わりを告げようとしている頃の混沌とした世界の物語。
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