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エデンがガイアに何か隠しているのは確かだ。隠しているというよりは話したくないのかもしれない。
ガイアもそれを深くは聞かない。
思わず手を取って砦に連れて来てしまったが、それでエデンをどうにかしようと思う訳ではない。
(エデンがいつか落ち着いて、自分の目標を見つけたら、俺はそれを見送ってやろう)
エデンのどこか世捨て気味な様子は、きっとまだ何も先の事が見つかっていないからだとガイアは思っていた。
だから、エデンにやりたい事が見つかったら、ガイアは喜んでそれを応援してやるつもりだ。
折角、命が助かったのに、日々無気力に潰えて行くのを見ているのは忍びない。
「あなたは……ガイアは私が気味悪くはないの?」
「何故だ?」
「ガイアも見ただろう? 私は魔女だ」
「それがどうした?」
ガイアの言葉に、エデンは目を瞠った。
「確かに不思議はことをするとは思うが、それで人を殺しているわけではないだろう?」
「……人を殺すことはできるよ」
「だが、殺していない」
「どうしてわかる?」
「あの火刑台に立たされるより前に不思議な力を使うお前ならば番人を殺して逃げることもできただろう。それをせずに火刑台に上がったという事は人を殺す気はないと言う事だ」
「でも、殺せる力はある」
「お前は俺が怖いか?」
ガイアはエデンの細い首にゆるく手をかける。片手で十分喉笛を潰すことが出来そうだ。
キルカ程の大男ではないがガイアは背も高く、一見細く見えるが十分な筋肉がついて、一度剣を振るえば馬の首も落す怪力の主だ。装備を脱いでシャツと革のズボンだけになると、その均整のとれた体の素晴らしさがよく分かる。
「俺は簡単に人が殺せる。お前と違って実際に何人も殺した。敵兵の中には俺を恨む者も多いだろう。そんな俺が怖くないのか?」
エデンはガイアの言葉の意図を察する。
「どんな力も使い方次第ってこと? あなたらしいね」
「俺らしい?」
エデンの瞳に一瞬だが動揺が走る。
しかし、それは本当に一瞬で、すぐにあの物憂げな陰に隠されてしまった。
「私なんかを助けて、あんな奇妙なものを見せられても平気でいられる、そんなあなたらしいって事だよ」
「小難しく考えるまでもない。俺はお前がおそろしいとは思わない」
「……ありがとう」
そう言って微笑んだエデンの顔が、ガイアには何故かどこか懐かしく見えた。
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