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ガイアとエデン
エデンを迎えての砦での生活は、中々に快適な物だった。
身の回りの世話と言っても、基本は食事や洗濯などの家事だ。それも下級兵たちと共に食堂で食べたり、洗い場に頼むことが可能だった。
「俺は別に食堂の飯でも構わんぞ」
ガイアはそう言うものの、エデンは炊事洗濯掃除、武具の手入れまで細かく完璧にこなした。ついには外に狩りに出て食材まで仕入れてくる始末で、ガイアの生活水準は恐ろしい程向上した。
「今日は野うさぎを取ってきたから、香草と一緒に焼いて食べよう」
冬を前に丸々と太ったうさぎを手に、エデンは要領よく料理を作る。
香草は砦の薬草園で育てているのだろう。その薬草園もエデンが来てから、格段と充実していた。
エデンは薬草の手入れもこまめに行っており、それを使って飲み薬や軟膏を作っている。この前は大酒を飲んで二日酔いに苦しむキルカに丸薬を与えて、あっという間に頭痛を治していた。
砦には医師もいるが、兵士が多い事から外科術に長けた老医師が常駐していた。その老医師が驚くほどの博識さをエデンは発揮している。
「エデンがおれば内科の医者を街へ呼びに行かせずに済むな」
冗談交じりにそう言われていたが、実際にエデンの薬は驚くほどよく効いて、医者いらずとまで言われていた。
その他にも、取ってきた食材を食堂の料理人たちと交換したり、下働きの者たちとも屈託なく接して、砦に居る者たちに上手く馴染んだようだ。
(笑顔が多くなった)
砦で過ごすエデンを見ているうちに、ガイアはそう思うことが多くなった。
相変わらず子供らしさは薄いものの、時折見せる笑顔は心からの物だ。
「ガイア、悪いけど、このウサギの毛皮を窓の外に干してくれない? 後で綺麗にして冬の外套の襟につけるんだ」
「それでこの所うさぎ料理が多いのか」
「それだけじゃないよ。私の弓は鹿を狩るには弱いんだ」
「弓で狩っていたのか?」
てっきり、あの不思議な力か何かで捕まえているのかと思っていた。
それがガイアの顔に出たのか、エデンは少し呆れたように笑って言った。
「私の術は時間を操るだけで、魔法の様にいろいろできるわけではないよ」
「……それは、どういう術なんだ?」
しばらく一緒にいるが、ガイアはそのことについて詳しく聞くことはしていなかった。
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