16. いつの日かきっと無くなりますように

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溜め続けて溜め続けて、次第に濁って淀んでいった何かがいなくなった身体は驚くほどに軽かった。 まるで何かが憑りついていたんじゃないかってほどすっきりした頭も身体も、吐き出したものの分だけ真っ白になっていくようで。 今までの俺が何だったか分からなくなるくらいには、俺は色んなもので心を満たし過ぎていたのかもしれない。 「――でも、でもね、奏」 再びのチーンは自分でやって、ぽいっと投げてゴミ箱に入らず手前で着地したティッシュの屑を拾って笑いながら捨ててくれる奏に、俺も少しだけでも、何かをしたかった。 「奏も、その……何かあったら、言って欲しい……って、俺が言うのもなんだけど……」 「ふ……確かに。でも、ありがと。……じゃあ日向、小指出して」 「う?」 右手と、左手の小指をそれぞれ。 絡めて揺らすのは、どんな起源だったか。 分からないけれど、この行為がどれだけ大切かは、奏の穏やかな顔を見れば何となく分かった。 「指切り拳万。お互いに、辛いって思ったらちゃんと口に出すこと。弱音を隠さないこと。守らなかったら針千本そのウサギに刺すからな」 「はっ!?」 「冗談。でも、ちゃんと守れよ。俺は日向がこの約束を破らない限り、守り続けるから」 この言葉があったから、俺は気兼ねなく奏を頼れた。 この言葉の一節一節が全部、俺の為のもの。 俺が奏に辛いって言っていれば、いつか奏も俺に辛いって言える。 でも。 本当はこんな約束、なければいいのにって思ったこともあった。 俺も奏も、辛いことなんてなくていいのに。 哀しいことも痛いことも嫌なことも全部、無ければこの約束はしなくて済んだ。 だから、いつか。 こんな約束が無くてもいいくらい、強くなりたいって。 辛いことなんて霞むくらいの幸せを、願っていた。  
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