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せめてもの抵抗か、それともただの意地か自分でも分からないけれど、唇も身体も硬く引き結んでいるとふっ…と小さく笑われた。
「ひなたちゃん、力抜いて」
「っん…――や、ぅ…んーっ…!」
「強情…」
なおもぎゅーっと引き結ぶ唇を、今度はぺろりと舌で何度もなぞられて。
はぐはぐと上唇を甘噛みされ、そうかと思えばちゅ、と吸い付かれる。
もうやだもうやだ。
なんで俺男にキスなんてされなきゃなんないんだよ。
そういう変態的な行為がしたいなら他をあたってくれと、フルフル首を振って逃れようとするもどこまでもしつこく追いかけてくる。
「…ひなたちゃん、男なのにリップつけてるだろ?いい匂いする」
「っそ…だから、おれ男だからやめろっ…!!」
「うん?なんで?」
一旦顔を離し、さも不思議そうに首を傾いだ藤堂に、こっちの方が首を傾げたくなる。
この雰囲気にも口車にも飲まれてはいけない。
落ち着きを取り戻しつつある頭がうるさいくらいに警鐘を鳴り響かせ、身の危険をこれでもかと訴えてくる。
「何でもなにもおかしいだろっ、男が男にサカってんじゃねーよ!」
「男が男にキスしちゃいけないなんてどこに書いてあるんだよ」
「っそれは…けどっ!」
「ないならいいだろ。噛まれたくないなら大人しくしてろよ。いい子にしてる内は優しくしてやる」
――あぁもう
話の通じない相手の顔がまた、近づいて。
触れてはいけない猛毒に犯されて、頭も身体もマヒしていく。
長い夜の幕開けを祝う高らかなファンファーレが、聞こえた気がした。
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