0. プロローグ

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まだ肌寒い夜道は静寂を好み、春の兆しすら見つからない冷たい風を呼んでいく。 着こんだコートをさらに引き寄せ、寒さに踊らされて買ってしまった肉まんを口いっぱいに頬張った。 「っあつ…ん、うまい」 ほくほくと湯気を立ち昇らせる白いふわふわはこの上なく美味しい物に思えて、凍えていた手がほんのりあたたかくなって。 今日一日の疲れも吹き飛ぶ気がした。 大学生になるこの春、志望校に合格した俺は念願叶って一人立ちを果たした。 その記念すべき一日目となる今日は、これから4年間お世話になるアパートの管理人さんへの挨拶や荷解きに追われ、気が付けばすっかり陽も落ち夜の足音を響かせる。 時間を思い出した途端空腹も襲ってきて、近所の探索がてら外に出て遅めの夕飯を買いに行った。 本当は自炊も考えなければいけないのだろうけれど、生憎俺は料理とは無縁に生きてきた人間で。 さらに言えば、まだ終わらない荷解きのせいで段ボールがキッチンに押し寄せていたため簡単に自炊なんて諦めた。 ――出来合いのが美味しいし、手軽だし、すぐ食べられるし… 言い訳はしっかりと頭に回り、いつも通りの『明日から』を考え少し遠回りしながら家に帰る。 最も、望んだとおりの平穏な明日が来ないことはこの時の俺には知る由もないことで。 これから何度この回り道を後悔することになるとも、全くもって思いもしなかった。  
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