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それよりも今は大きく欠けたフランクフルトに意識が集中して、それどころではなかったのかもしれない。
いくらこんな安物とは言っても、一人暮らしの学生の貴重な夕飯。
断りを入れたとはいえ了承はしていない、つまりは窃盗に近い。
たかがフランクフルト一つでムキになり過ぎじゃないかと思わなくもないが、なぜかムカついて仕方なかった。
「返せよ俺のフランクフルト!!」
「胃に入ったものを返せって言われてもな…――そうだ、代わりにこれやるよ」
悪びれることなく、謝罪すら口にせず男は持っていた袋に手を突っ込み缶ジュースを差し出してくる。
対価を支払ってくれるなら、と許しそうになってしまう俺は本当にバカで。
どうしてこの時、それを罠だと思わなかったのか。
半分近くも持っていかれたフランクフルトの礼と、渡されたその缶をよく見もせずに開けて思いっきり飲んでしまった。
甘いのに、少し苦くて。奇妙に喉が焼けていくような、不思議な味。
美味しいとは言えなくても不味いとまではいかなかったのが悪かった。
もしもっとまずかったら。なんてものを寄越すんだと、すぐに捨てて掴みかかることだって出来たのに。
飲めなくはないからと、一気に缶の半分以上も喉に流し込んで、ようやく訪れた異変。
頭がふわふわと飛び、胸の辺りが嫌に熱くなって。
何を飲ませたんだという抗議はしかし届くことはなく、俺の意識はそこで途切れる。
焦ったような、けれどどこか嬉しそうな、男の顔を最後に。
これが、全ての始まりの出会い。
ここから始まる、俺達の捻じ曲がった恋。
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