1. 幻想に憑りつかれる夜

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柔らかなシーツに沈み込む身体は熱に浮かされ、自分の意思が介入できないほど制御という言葉が縁遠い。 誰かが俺の身体を代わりに操って、動かされているような。人形にでもなったかのような疑似体験がまとわりつく。 それでも感覚だけは過敏に情報を拾い、軽く意識が吹っ飛んでいた間に連れ込まれたらしいどこかの家のベッドを遠慮なく堪能する。 柔らかくて、けれど完全に身体が沈み込むことはない適度な反発力にさらさらと手に馴染む真っ白なシーツ。 広くて寝心地の良いそこを、浮かれた気分でころころと転がっていると誰かの笑う声がした。 「ふは、子供みてぇ。こんな酒に弱いやつ初めて見た」 「んー…?おまえ、だれ…」 「さぁ?誰だろーな?」 霞んでぼやける視界に映るその男は、へらっと得体のしれない楽し気な笑みを浮かべながら同じくベッドに乗り上げて。 くしゃっと俺の前髪を撫でまわした。 「ん…」 「かーわい…撫でられんの好き?」 「すき…じゃ、ない…っおまえ、ふらんくかえせー…」 食べ物の恨みは凄まじいと聞くが、朧げな記憶の中でもきちんとそこだけは思い出せるのだから真実だろう。 俺が一口として食べることなくがぶりと勝手に持っていかれたフランクが頭を過ぎり、ポコポコと目の前の広い胸板を叩く。  
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