1. 幻想に憑りつかれる夜

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「かえせー…っ」 「ったくわがままだな…つーかお詫びに酒やっただろ?」 「さけ…?さかな?おれきらい…」 「鮭じゃねーよ酔っ払い」 ――さけ?鮭?酒… 頭の中で魚と酒と丸みのある『さけ』の文字が躍り狂い、何がなんだか分からなくなってくる。 けれどとりあえずふわふわして気分は高揚して、脳内でぐるぐる回る『さけ』達も楽しそうで。 まぁいっか、と考えることを放棄しようとした瞬間、ぱっと物凄く大事なことを思い出した。 「そ、いえば…おれまだみせーねん…」 「は?」 「みせーねんに…さけのませたらダメってばぁ」 上半身を起こし、がしっと力の抜けた手で肩を掴んで揺すろうとするけれど、逆にこっちがぐらぐらしてきてポスッとベッドに沈んでしまう。 ――だめだ…ねむい… 酷く重たい頭と瞼が連動して、意識が睡魔に呑み込まれていく。 アルコールの効果もあってすぐにでも眠りにつけそうなのに、目の前の男はそれを阻止した。 「寝るなよ少年、連れてきた意味がないだろ」 「しょーねんじゃない…こどもあつかいすんなバカぁ」 「バカってお前な…」 「バカー…ばーかばーか…おまえ、ばか…」 もう自分が何を言ってるかも定かではない。 眠りの淵に片足を突っ込んだ脳みそでは考えるのもだるくて、それなのに容易には寝かせてくれる気はないらしい。 ふかふかの枕に埋めた顔を両手で挟まれ、ぐっと顔を近づけられた。  
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