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「かえせー…っ」
「ったくわがままだな…つーかお詫びに酒やっただろ?」
「さけ…?さかな?おれきらい…」
「鮭じゃねーよ酔っ払い」
――さけ?鮭?酒…
頭の中で魚と酒と丸みのある『さけ』の文字が躍り狂い、何がなんだか分からなくなってくる。
けれどとりあえずふわふわして気分は高揚して、脳内でぐるぐる回る『さけ』達も楽しそうで。
まぁいっか、と考えることを放棄しようとした瞬間、ぱっと物凄く大事なことを思い出した。
「そ、いえば…おれまだみせーねん…」
「は?」
「みせーねんに…さけのませたらダメってばぁ」
上半身を起こし、がしっと力の抜けた手で肩を掴んで揺すろうとするけれど、逆にこっちがぐらぐらしてきてポスッとベッドに沈んでしまう。
――だめだ…ねむい…
酷く重たい頭と瞼が連動して、意識が睡魔に呑み込まれていく。
アルコールの効果もあってすぐにでも眠りにつけそうなのに、目の前の男はそれを阻止した。
「寝るなよ少年、連れてきた意味がないだろ」
「しょーねんじゃない…こどもあつかいすんなバカぁ」
「バカってお前な…」
「バカー…ばーかばーか…おまえ、ばか…」
もう自分が何を言ってるかも定かではない。
眠りの淵に片足を突っ込んだ脳みそでは考えるのもだるくて、それなのに容易には寝かせてくれる気はないらしい。
ふかふかの枕に埋めた顔を両手で挟まれ、ぐっと顔を近づけられた。
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