1. 幻想に憑りつかれる夜

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焦点の定まらない視界で見ても相当端正な容姿。 眼鏡を外した男の顔立ちをさらに印象付けるように、蒼と金の瞳が秘めやかな欲望を称えて光る。 仰向けにされた俺の上に跨ると体格差は歴然、広い肩幅も長い手足も羨望に駆られるだけの男らしさを無言で見せつけて。 子供と言われたことが本気に思えて腹が立った。 「…おにーさん名前は?」 「…おまえがさきにいえよ、バカ」 「はいはい…ったく生意気なのもここまでくると可愛げがなくなるな」 少し冷めた酔いはイライラを呼び起こすばかり。 ムカつくことを言っても譲歩されるのが無性に嫌になる。 「……藤堂明(とうどう あきら)だ、覚えとけ。で、お前は?」 「――…」 あくまで上から目線を崩さない態度も、さっきから退かそうと抵抗してるのに全く歯が立たないことも苛立ちを増幅させる要素で。 だからちょっとした意趣返しをしたくなった。 「はちがつ、ついたち」 「――あ?」 「で、日にちの日に向かう」 不思議そうに首を捻る藤堂にしてやったりと清々しくなったのも束の間、すぐに意地悪そうな笑みを落とされる。 「面白い名前だな……『ほづみひなた』君?」 「っな…!」 まさか、まさか。 今ので分かるなんて思ってもいなくて、出し抜いたつもりが笑いの種にされてしまう。 「八月朔日に日向だろ?俺をからかうなんざ悪い子だな」 「っ何だよ、ふざけ…」 「もう黙れよ。埒が明かない」 瞬間。 唇を、あたたかくて、柔らかい何かで塞がれて。 頭の中に回っていた言葉は全て真っ白に塗り潰されていった。  
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