僧侶と老婆

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この地は海流が速く、満月の夜、月光に照らされた海路に入った者は二度と戻ってこないと先祖代々言われてきた。 四十にして惑わず。私の天命がいつになるのかは分からないが、人生の大半は祈りに費やした。最後に観音菩薩におすがりするのも良いではないか。 決心がついてからの行動は早かった。 村の船大工に四つの鳥居がついた小舟を作るよう依頼した。 船大工はどうしてこんなものを、と怪訝な顔をしたが、「発心門」「修行門」「菩提門」「涅槃門」であると説明した所、よく分からんがお前さんにはずいぶん世話になっているからな、と力こぶを見せて快諾した。 かくして1か月後、四方を鳥居で囲まれた一艘の小舟が完成した。 私がこの村を離れるという話は瞬く間に広がり、お坊様は極楽に一番近い場所に行かれるんだよ。村の寺はどうするんだ。と村民はさまざまな思いのたけを話した。 私よりも功徳を積んだ方がこの寺を引き継ぐのですよ。と教えた所、貴方の教えを乞いたいのです。と返答された時は目頭が熱くなった。 何も作らず、物ばかりもらう私がこんなに慕われていたのか、と。 かくして、満月の夜がおとずれた。
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