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「ここだからさ。ね」
彼の降りる駅だったようで。
手を引かれて降ろされる。
「ちょっ…。ほっといてくれませんか?」
何が楽しくて振られた彼氏の友達の家に行かないとならないのだろう。
あたしは地下鉄に乗って揺られてすべて忘れられたらと。
何回でも往復するつもりだったのに。
「まずは俺の家にきてから。ね?」
見ず知らずの人があたしの腕をつかんで歩き出す。
「俺の家駅の目の前だしそんなに歩かないから安心してね」
“安心してね”というけど
別に駅から遠くても近くても安心度はかわらない。
マイペースな彼に振り回されるがいやな気持ちがしないのはなぜだろう。
「どうしてつれていくんですか?」
「目で確かめてほしいものがあるから」
確かめてほしいものとは何なんだろう。
聞いても“ついてきて”としかいわなそうだしそのままついて歩く。
どうせ行くあてもないし。
「ここなんだ」
見上げるマンション。
「本当に駅から近いんですね」
あたしの言葉ににっこり笑ってエントランスをくぐる。
腕はつかまれたまま。
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