1‐彼女が飲むもの

2/6
前へ
/16ページ
次へ
 ガタンと電車の揺れで目を覚ます。頭がグラリと揺れ、目の前の人に怪訝な目で見られてしまった。朝、通勤と通学ラッシュと被る時間。××線はいつもの如く混みあっていた。  隣には知らないおじさん。スマホとイヤホンで自分の世界に引きこもっている。スマホに少しだけ憧れを抱きながら、私はポケットから白いガラケーを取り出した。 「(通知、来てるかな)」  手慣れた操作でネットを開き、とあるサイトに飛ぶ。そこは私の楽園、私のオアシス。自分だけのブログが作れるサイトだ。  誰かが私のブログにポイントを送ってくれた通知が一件。誰かが私のブログにコメントしてくれた通知が一件。  それをみて電車だと言えど、ニヤニヤと口角が上がってしまうのがわかった。  私の趣味で描いている小説と絵を載せているブログは、ポツポツと閲覧者が増えてきている。日に日に増える閲覧者の数字に、少しだけ優越感を感じていた。 「――次は、〇〇、〇〇。 お出口は右側です」  聞き慣れたアナウンスを合図に、ガラケーを閉じる。ブログの記事の作成途中だったけど、仕方がない。〇〇駅に着いたのを見、私は荷物を持って立ち上がった。  扉から足を踏み出し、ホームへと降り立つ。今日は風が強いようで、自慢のボブカットの髪が揺れる。髪が乱れる日は好きじゃない。 「あ、久しぶり! 覚えてる?美琴だよー」 「あー……うん、久しぶり」  嫌な人にあったなあ、と内心思いつつ、話しかけて元クラスメイトの美琴に応答。この子はたしか小学校の頃のマドンナ、みたいな子だ。今じゃあその欠片もないメイク顔。私的にはメイクをしない方がいいと思う、だなんて言えるはずないけれど。  パチパチと瞬きするたびに風でも吹きそうなくらいに濃い睫毛。その下に潜む目が、私をとらえる。 「私さあ、最近大変だったの」 「え……なんで?」 「あのねー」  私はその美琴が発する言葉を聞き、思考を停止させた。私がそうなった事なんか露知らず、美琴はぺちゃくちゃと話し続ける。  必死になって思考を復活させ、冷静になり、美琴の言葉を思い出す。――私、ゾンビになっちゃってさ。という言葉を。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加