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紗世は駅に降りると辺りを見渡して、そして何かに気づいたようで、急に顔を明るくして駆け出していった。
その先には学ランを着た男がいる。紗世はそのままその男に腕を絡めると嬉しそうに笑った。
俺はその様子をじっと見つめた。今まで目を逸らしてきた現実だったけど、今日は逃げずに最後まで見届けてやろうって思った。
紗世はその男と一緒に千代田線に乗りこんでいく。
その地下鉄に乗って紗世は彼女の住む世界に向かっていくんだ。
そして俺の知らない世界で紗世は青春を謳歌するんだろう。きっとこれからも。
……だけどそれでいいじゃないか。俺には俺の世界があるわけだし、なによりこの時間が紗世にとっても大切なんだと、それが分かったからさ。
俺にとってもそれはずっと変わらないんだろうな。
それにしても幼馴染が可愛いってのは損なことばかりだ。何が「明日からこの電車乗ろうかな?」だ。人の気も知らないで。
でも、それでも可愛いんだよ。こん畜生!
……やっぱ幼馴染って損な役回りだぜ、ったく。
『ドアが閉まります。ご注意ください』
アナウンスとともに閉まるドア。なぜだか今日はそれが新しい俺の始まりを告げる合図のような気がして、自然と笑みが零れた。
17years commuting
#2 幼馴染
--終--
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