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第二話 屈辱
吉崎浩之は音楽好きだった。とりわけ十代の女の子たちだけで構成された、歌って踊るグループが好きで、彼女たちの公演やイベントは欠かさずチェックし、可能な限り足を運んでいる。音楽ソフトや関連書籍の購入はもちろんのこと、限定グッズの収集にも余念がないし、ファンクラブの運営にも携わっていて、ファン同士の間ではちょっとした有名人にすらなっている。
そんな彼を「アイドルヲタク」と呼ぶ人間もいる。けれども本人としては、そう呼ばれるのは不本意だった。あくまで夢を追いかける少女たちが、無数のライバルと切磋琢磨しつつ、次々に襲ってくる試練を乗り越えながら、輝かしい栄光を目指して成長していく姿を見ることが喜びなのである。
それは明日への活力にもなる。普段は機械工具を売る会社で、営業係長として働いていた。仕事は迅速で丁寧だし、取引先の信頼も厚い。後輩の育成にも熱心だから、いずれもっと責任のある立場に抜擢されるだろうと、職場では専らの評判であった。元気の秘訣は何ですかとよく聞かれるが、迷わず音楽だと答えているのは言うまでもない。
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