第二話 屈辱

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 しかしどんな愛情も、次第に慣れてきてしまうものである。吉崎浩之の中に浮気心が芽生えた。小森あずさの下着だけでは、飽き足らなくなってきたのだ。他の女性の物も欲しくなってくる。その選抜対象はもちろん〈大須オーガニックドールズ〉のメンバーだった。  一位はすぐに決まった。神島紗絵香である。彼女はグループでも一、二を争うルックスの持ち主なのだが、歌もダンスも今一つで、男性関係もかなり乱れているという噂もあった。そのために「ビッチアイドル」等の悪名が立てられていて、ファンからは批判的な眼で見られている。  その最たる者が吉崎浩之だった。彼の理想からすれば、神島紗絵香はアイドルなどとは呼べない。面汚しと言ってよい。ファンクラブの責任者として、彼女が苦労人であるのは知っているし、本人としてはオーガニックドールズは足がかりで、別の夢を抱いているらしいことも聞いてはいる。だがはたしてアイドルとしても成功できない者が、何か他の分野でのしあがることができるのだろうかと思う。  ファンクラブの責任者として、社会の厳しさを教えてやるべきである。そのためにも彼女の下着を盗むことにした。もっとも誰とでも寝るような女性だから、それぐらいは痛くも痒くもないかもしれない。あくまで足がかりである。吉崎浩之は使命感に燃えて、神島紗絵香の住むマンションへ通ったのだった。  やはり善行は報われるものだ。目的の物は意外に早く現れた。深夜のゴミ集積所に、下着が透けて見えている袋があったのだ。建物の周辺は薄暗く、人影も見当たらない。吉崎浩之は小太りの体を闇に紛らわせて、みごと宝の入った袋を手にしたのだった。
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