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 遊佐先輩――遊佐真一郎(しんいちろう)の存在は、わたしにとって特別なものだった。  ロックを聞くようになったのも、ギターを始めたのも、初めて親に反抗したのも、先輩の好きなシシドカフカを意識して黒髪ロングヘアをキープしているのも、――わたしが今の自分を見つけ出すことになったすべてのはじまりは、彼だった。  今から3年ほど前。高校一年の秋のことだ。  学園祭で、わたしは初めて遊佐先輩のライブを観た。  先輩の気だるげな、静かな怒りを押し殺したような歌声は、それまでロックというジャンルにまったく縁のなかったわたしを正面から撃ち抜いた。 『ミッシェルガンエレファント』の曲を数曲。そして最後にオリジナルを一曲。  先輩が作ったその曲を聴いているうちに、見知らぬ感情が涙となって溢れ、頬を伝った。  わけが分からなかった。自分の反応にわたし自身、心の底から戸惑った。  湧き出した『熱』の正体を知りたくて、大須のライブハウスに通い詰めた。先輩のライブも欠かさず観に行った。  お小遣いはロック系のCD代とチケット代に消えた。反対する親を半分脅すようにしてアルバイトの許可をむしり取り、自分のギターを買った。  卒業と同時に上京した先輩が、小さなレコード会社からプロデビューすることを知ったのはその頃だ。  わたしもいつか上京したい。先輩の後を追ってロックミュージシャンになりたい。  夢は膨らみ、毎日ギターの練習に明け暮れた。友達との寄り道はほとんどしなくなった。大好きだったネイルアートも諦めた。飾った爪はギターの邪魔になるからだ。
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