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制服のスカートを見下ろす。一番脚が綺麗に見える丈を、鏡の前で何十分もかけて研究した。成果は出ているだろうか。
「あの、……昨日のライブ、すごくよかったです」
「えー、ほんとに? なんか、あんま盛り上がんなかったような気がするけど」
昨日のライブは『ピストルズ・ナイト』というタイトルで、セックスピストルズの曲ばかりカバーするというものだった。
遊佐先輩目当てで集まった女の子たちがピストルズを知っているとは思えず、確かに客席のノリは今一つだった。
「それでも、先輩がやりたい曲をやってくれたら、わたしは嬉しいです」
「そう?」
「はい。影響を受けて、さっそくピストルズの曲、ダウンロードしちゃいました」
「マジで? ――どれ」
わたしが肩に垂らしていたイヤホンを、先輩がひょいとつまんで自分の耳に挿し込む。少し遅れて、心臓がぴょこんと跳ねた。慌てて曲を再生する。
「あ、これ。俺が初めて聴いたピストルズの曲だ」
「えっ、どれですか」
「これ」
もう一方のイヤホンを、先輩がこちらに差し出す。自分のものなのに「ありがとうございます」と受け取り、震える指先で右耳に装着した。
『アナーキー・イン・ザ・U.K.』のイントロが流れ込んでくる。彼らの一番有名な曲だ。
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