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「194円です」 「はい、じゃあこれで」  差し出された500円玉を受け取ろうとすると、それはすいっと上に逃げた。 「お姉さん、大学生?」 「……」  思わず飛び出しそうになった舌打ちを寸前のところで引っ込め、わたしは低い声で「そうですけど」と答えた。 「お名前は?」 「はい?」 「名前だよ、お姉さんの。教えて?」 「……田中です」 「田中さんね。下の名前は?」 「角栄」 「……」  一瞬間があって、男がブハッと噴き出した。 「大成しそうな名前だな」 「どうも」  改めて「はい」と差し出された五百円玉を、澄まし顔で取り上げる。 「ちょうどお預かりします」 「はい。っておい、全然ちょうどじゃねえし」 「おつりは慰謝料として没収。ナンパなら余所でやれば? ――大輔(だいすけ)」  じろりと睨みつけると、金森(かなもり)大輔はサングラスを外し、ニッと白い歯を見せた。
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