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「何だよ、やけに機嫌わるいな、瞳」 「だって、くだらない絡み方するから」 「セクハラ対処の演習だよ。地元のコンビニとはいえ、妙な客が来ないとも限らないだろ。――なあ? ハバ」  大輔が後方に声をかけると、雑誌コーナーの方からハーバード瑞樹(みずき)がニョキッと顔を出し、「ども」と手を広げて見せた。金髪の坊主頭がよく目立つ。  二人は小学校からの幼なじみだそうで、この大須の街でいつもつるんでいる。  わたしと大輔は高校時代からの友人だ。中高一貫の6年間のうち1度しか同じクラスにならなかったのに、ウマが合うというのか、卒業した今も仲がいい。 「一人足りないね。今日、坪井(つぼい)くんは?」 「信吾(しんご)は店番。町内会の集まりがあって、今日は家に誰もいないんだと」 「ふうん」  仲良し男子三人組のもう一人、坪井信吾の家は古着屋を営んでいる。  大須には数多くの古着屋が存在するが、レアなロックTやもう手に入らない過去のフェスTなど、彼の店はなかなかの掘り出し物を置いているので、最近はわたしもちょくちょく店を覗くようになっていた。 「どうよ? これ。レイバンのヴィンテージもの。信吾んとこで買ったんだけど」  大輔はティアドロップのサングラスを外し、得意げにくるりと回して見せた。 「似合わない」  はっきり伝えると、彼は「ちぇー」と拗ねたように口を尖らせた。  大輔は栄にある不動産屋の一人息子で、身に着けているものはいつもセンスのいい高級品ばかりだ。育ちの良さが顔に出ているから、やんちゃな古着系なんか似合いっこないのに、時々こうしてトンチンカンな冒険をしてはそのたびに失敗している。  店の古着を適当に、そしてカッコよく着こなす坪井くんを傍で見ていれば、時々そういうモードになるのも分からないでもないけれど。
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