プロローグ

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プロローグ

 セックス・ピストルズの『ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン』が何度目かのリピートを終えたその時、少し先の曲がり角から待ち詫びていた背中が現れた。  だらしなく着崩した制服。背中にはいつもの黒いギターケースが背負われている。  わたしはイヤホンを両耳から外し、街路樹の陰から足を踏み出した。早足で追いつくと、ひとつ深呼吸をしてから、思い切って声をかける。  待ち伏せしていたことを悟られないよう、出来るだけ自然に。 「――遊佐(ゆさ)先輩」  振り向いた先輩は、とても眠そうな顔をしていた。  わたしの笑顔につられたのか、元々垂れ気味の目尻がさらに下がる。 「どうも。えっと……」 「幸村瞳(こうむら・ひとみ)です」 「あー、そうそう。コームラさん」  先輩はへらっと笑って、 「ごめん。俺、バカだから人の名前覚えらんなくて。昨日はライブありがとね」  自分の顔がたちまち緩んでしまうのを自覚した。名前はともかく、顔を覚えてもらったことが嬉しかった。  ふあ、と先輩が欠伸をする。このまま並んで歩いてもいいんだろうか。迷いながらも、わたしはさりげなく歩調を合わせた。       
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