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「おつかれさまでしたー」  事務所の方に声を掛けてから裏口を出て、道を挟んだ向かいの楽器店に向かう。  信号待ちをしていると、生暖かい風がミニスカートの裾を揺らした。まだ5月だというのに、今夜も蒸して寝苦しい夜になりそうだ。  重いガラス扉を押し開け、店に入っていくと、壁一面に飾られた色とりどりのギターが出迎えてくれた。照明の光を反射し、それぞれが自分を主張するかのように、鋭い輝きを放っている。 「よう、おつかれ」 先に来て待っていた大輔が丸椅子に座り、ギターを弄っていた。ハバくんの姿はないようだ。 「どう? なかなかサマになってねえ?」 そう言って立ち上がり、ジャーンと鳴らして見せたのはいかにも高そうなエレキギターだ。クリーム色のボディに誰かのサインが入っているのを見て、ヒッと飛び上がる。 「ちょっと……! 勝手にお店の商品で遊ばないで。しかもそれサイン入りじゃない。貴重な物なんじゃないの?」 「お前なあ。人のこと子供みたいに。ちゃんと気を付けてるよ。失礼だな」 「あっ、ほら! そんな持ち方したら、指紋がベタベタつくじゃない。もう、こっちに渡して!」  慌てて取り上げようと、強引に引っ張る。 「いてて、ストラップが引っかかってるって。ちょっ、無理矢理ひっぱんな、おい!」 子供のように小競り合いをしていると、奥から笑い声が聞こえた。
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