770人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
-2-
「おつかれさまでしたー」
事務所の方に声を掛けてから裏口を出て、道を挟んだ向かいの楽器店に向かう。
信号待ちをしていると、生暖かい風がミニスカートの裾を揺らした。まだ5月だというのに、今夜も蒸して寝苦しい夜になりそうだ。
重いガラス扉を押し開け、店に入っていくと、壁一面に飾られた色とりどりのギターが出迎えてくれた。照明の光を反射し、それぞれが自分を主張するかのように、鋭い輝きを放っている。
「よう、おつかれ」
先に来て待っていた大輔が丸椅子に座り、ギターを弄っていた。ハバくんの姿はないようだ。
「どう? なかなかサマになってねえ?」
そう言って立ち上がり、ジャーンと鳴らして見せたのはいかにも高そうなエレキギターだ。クリーム色のボディに誰かのサインが入っているのを見て、ヒッと飛び上がる。
「ちょっと……! 勝手にお店の商品で遊ばないで。しかもそれサイン入りじゃない。貴重な物なんじゃないの?」
「お前なあ。人のこと子供みたいに。ちゃんと気を付けてるよ。失礼だな」
「あっ、ほら! そんな持ち方したら、指紋がベタベタつくじゃない。もう、こっちに渡して!」
慌てて取り上げようと、強引に引っ張る。
「いてて、ストラップが引っかかってるって。ちょっ、無理矢理ひっぱんな、おい!」
子供のように小競り合いをしていると、奥から笑い声が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!