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「本当だよ、俺は沙也加一筋だ」
今まで何人の女にこの言葉を投げ掛けたかわからないが、今は沙也加一筋なのは事実だ。美人を見るのは相変わらず好きだが、恋愛対象として見ている訳ではない。
その後もまあ、他人が耳にしたら聞くに堪えないであろうカップルらしいやり取りを数十分ほど、たっぷりと交わしてから通話を切った。来週の土曜日に沙也加が家に泊まりに来る事になったので、部屋の掃除をしておかなくては。乱雑に畳まれた服の山を眺めつつ、まあそれは来週でいいかと結論づけてそのままベッドに倒れ込む。
目覚ましのセットをしていると、塚原からのメッセージを受信した。
『今日は来てくれてありがとうな。母ちゃんも姉ちゃんもお前の事を凄く気に入ったみたいだから、また近いうちに食べに来いよ! 給料日前でしんどい時期だろ? 明後日はどうだ?』
確かに給料日前で食費を削りに削っていたので、この誘いは心底嬉しかった。二つ返事でオッケーを出す。だが、少し引っかかる点があった。塚原のお姉さんが俺を気に入ったとはどういう意味だろう。扉の隙間から俺の姿が見えていたのだろうか。
まあ美人に気に入られるのは悪くないし、あの料理をまた味わえるのは願ったり叶ったりだ。明後日がとても楽しみになった。
●◎●◎
二日前に訪れたときと比べると、明らかに豪勢な食事が食卓に並んだ。メインはサシの入った赤身肉が煮え滾るすき焼きだ。その脇を固めるように、刺身や海藻のサラダが入った大皿が出される。刺し身も赤身だけではなく、帆立などの貝類や甘海老の刺身といった盛り合わせだ。
「今日はちょっと奮発しちゃった! 沢山食べなよ」
「嬉しいです、ありがとうございます」
「お母ちゃん、お前が来るからって張り切っちゃって。今日は父ちゃんと弟がもうすぐ帰ってくると思う」
「弟もいたのか」
「ああ、歳が離れた弟がな。今年で四歳になる」
四歳とは可愛い盛りだ。しかし、一昨日に訪れた際はこの家の中にいなかった。まさか夜間に一人で遊びに行っている訳でもあるまい。そんな疑問を先読みしたかのように、塚原は言葉を付け足した。
「一昨日はお泊まり保育ってことで保育園に泊まってたんだよ。一年に一回のお楽しみイベントらしい」
「ああ、なるほどな。そういえば俺も幼稚園のときに一回あった気がするな。キャンプファイヤーをしたのを覚えている」
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