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 幼少の頃の記憶というのはほぼ薄れているが、勢い良く燃え上がる炎の印象が強くてキャンプファイヤーのくだりはしっかりと覚えていた。後はあまり記憶に無いが、親が恋しくて泣いた記憶も微かにある。 「俺のところもキャンプファイヤーがあったな。どこも同じなんだろうな。さ、そんなことより早く食べようぜ。すき焼きなんて久しぶりだ」  結論から言えば、今日の料理も絶品だった。とはいえ、一昨日とは違いスキルがあまり必要ない料理ばかりなので素材が良いだけなのだが、それでも大満足に変わりはない。卵を纏った牛肉に舌鼓を打っていると、玄関の扉が開く音がした。  「おお、いい匂いだ、今日はすき焼きか」  振り返ると、そこには塚原をそのまま四十代に成長させたような美形の男性が立っていた。はっきりと彫りが深く、大人の渋さと余裕が漂っている。恐らく彼が塚原の父親なのだろう。その後ろにはあどけない少年が寄り添うように立っていた。 「君が噂の和樹君か、はじめまして」 「はじめまして。お先に頂いてます」  挨拶もそこそこに、塚原のお父さんも食卓に座ってすき焼きを食べ始めた。塚原のお父さんの後ろにぴったりと寄り添っていた男の子は無言で駆け抜けていき、奥の部屋に入っていった。確か、あの部屋はお姉さんがいる部屋だ。 「隆人は姉ちゃん大好きだから」  塚原が小声で俺に囁く。年齢的にも姉に甘えるのは当然だと思うが、すき焼きより姉を優先するとは。 「そういえばお姉さんは今日も寝てるの? 挨拶くらいしておきたいのだけど」  さり気なく塚原に尋ねてみる。俺の事を気に入ってくれてるなら尚更だ。しかし、塚原は申し訳なさそうな顔を浮かべた。 「姉ちゃん今日はすっぴんだから駄目だと思う。それに今は隆人が遊んでるし。また次の機会に会ってやってくれ、な?」  塚原はそう言って俺に頭を下げる。何故かその言葉には有無を言わせぬ威圧感が含まれていた。  何かがおかしい。  何も塚原の態度だけじゃない。このリビングに入ったときからずっと気になっていたのだが、奥の部屋から視線を感じていた。考えすぎだと言われればそれまでの違和感だが、意識すればする程に視線は突き刺さるようだった。隆人君が遊んでいるはずの今でさえだ。奥の部屋から全く声が聞こえないのも、不気味さに拍車をかけている。  奥の部屋の様子は一体どうなっているのだろう。 
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