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「すげえ。独り言」
「心の声漏れ過ぎ」
「…」
小上がり席でテーブルに突っ伏している西野結実は酔いの臨界点を超えたらしい。
いいだけ結婚に対しての御託を並べて西野は記憶を失う旅に出そうだ。
真崎凌も安野梨々香も普段どおりに居酒屋で飲み食いして小さく声でボヤき続けている西野もそのままにしてる。
「気にすんなって。いつも?毎回?まぁこんなもんだ」西野の向かいに座っている成見多喜の渋い表情も気にならない。
「出来るならこうなる前に会えてたら良かったのに」酔いは潰れた西野のテーブル周辺から不意に動いて倒しそうなグラスとか割れそうな皿を手慣れた感じで安野が片付けていく。
「まぁ。なんだ」うまく言葉にすることが出来ないでいる成見は「これがあの西野?みたいな感じでしょ?」笑ってる安野に頭をかいた。
「そうだね。いや。らしいか」なんて一人で頷いて成見は西野を見て笑みを浮かべた。
「君らとならこんなのも当然か」
「そう?」
「じゃないと毎回こうじゃ。ね」成見が顎で指す先の西野を見て真崎が鼻で笑う。
「会社じゃどうなのか知らないしね」
「どうせいい顔してんだろ。西野のことだから。黙っとけば上っ面でどうにかなる」話し途中で「リョウ」安野に止められ肩をすくめる。
「なににしてもだ。その反動がデカすぎんだよ」面倒くさそうに。でもそこにいる全員が言葉の意味を理解している。
店員が成見の頼んだメニューを運んでくると「定食じゃねぇか」それを見た真崎に「まぁ」なんて答えにならないひと言。
「酒は?なんか飲まねぇの?」
「飲まない」
「え?!もしかして酒ダメ?飲めない?」
「んー。飲まないかな。というか飲む理由がない」 いただきます。と、手を合わせてから食事をする。
「飲むのに必要な理由?」「飲めるのに?」声が重なって安野と真崎の目が合った。
「酒を飲んだことないからな。それもこうなるイメージしかないから」すっかり動かなくなった西野に目を向けて「少なくとも自分にはあり得ない状態だけにはなりたくない」成見は止めていた箸を動かし始める。
「お前も変わんないな」真崎がそう言いながら嬉しそうに笑うと「大して成長してないからな。身長もあの頃まんまだ」真顔で答えるからさらに笑いを誘った。
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