風と実

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風と実

「成見さん。仕事できる人なんですよ」 私に耳打ちする後輩女子はテーブル挟んで向かいに座っている成見に積極的に話しかけていた。 懇親会とは聞こえはいいが軽い飲み会みたいなもので互いの会社でテーブルをはさんだ格好。 確かに成見は向こうの序列では3番目あたりか。 ここで座っている場所は5番目あたりだけど。 仕事以外はそこぐらいの立場か。 仕事の速さは他社であるこちらの耳にも届いていて。 私にはボヤっとしてるヤツにしか見えませんけど。 非常に面倒くさそうだし。 社交性はできないヤツのそれだっての。 全然こっち見ないし。 会社での社交辞令的なあいさつはするのにそれ以外は無視ですか? 滅多にないその名前とその顔も知ってる人のままなんですけど。 覚えてないんですかぁ? そこそこ友達だったと思うんだけどな。 目は合わせない。 目の前の年下だろう先方の女性社員に話しかけられてはいるがさして興味がわくわけでもなかった。 何しろその横にいる西野が視界に入っている。 小柄な女の子の隣のせいかより際立つ大きさ。 黙ってても目立つ存在なのに静かにそこにいる。 それで周囲を見てる。 周囲の雰囲気に合わせられるしその笑顔はここにいる人らの性別や年齢を超えて明るくさせている。 例えそれが嘘の笑顔であったとしても。 彼女の仕事ぶりは笑顔に見合わず淡々として地味。 それでいて周囲への気配りもできチームとして機能している。 らしいと言えばらしい。 けれど悪く言えば他人の尻拭いをしているようにしか見えない。 相も変わらず出すぎるのも退がりすぎるのも周りを気にし過ぎて身動き取れないようにしか見えない。 こっちの社内でも背が高い可愛い女の子は有名になっている。 自分にしたら仕事している人に外見的な評価だけなのはどうなんだとは思うが目立ってしまうのは彼女が悪いのだからしょうがないと言えばしょうがない。 退屈な時間。 西野の存在感は飛びぬけている。 それを知ったからといっても何のいいことはないのだけど。
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