9人が本棚に入れています
本棚に追加
今以上の関係を誰にも求めていない。
今回は転勤場所がここだっただけでこだわったわけではないだろう。
たぶん次の転勤も聞かなければいきなり知らされ数日でいなくなる。
誰も知り合いのいない県外の大学を進学し就職も人や土地に縛られることもなく誰にも話すことなく決めて結果だけ伝えてきていなくなった。
「またな」といっても「じゃあ」だ。
いつもいつも必要としている誰かがいることを気付いていない。
ほらお前の目の前で口とんがらせてる小綺麗なヤツ。
文句言ってるくせに顔は嬉々としている。
ずっと足りなかったものが見つかったみたいに浮かれてやがる。
子供みたいに周囲のことなんか気にならないでお前ばかりに目を向ける。
いつもはその逆の性格の西野をそこまで変えられる。
でもそこに気付いてもいないんだよな。
相も変わらず。
「なんなの」なんてボヤきながら壁を叩く。
それも寄りかかったままの側頭部で。
「どうした?」声に驚いて振り向くと同期の藤島がエレベーターの扉が開いた先にいてゆっくりと中に入ってきた。
「何かあったのか?」
「いや。特には」慌てる自分にハッとして閉じようとしていたエレベーターの扉の先に目を配る。
向こうにいる背中を向けたままの成見に今の光景は見えてなかったみたいで安心した。
「どう、そっちは?」
「正直に言えば。キツイな」二人とも同じエレベーターの壁に寄りかかりながら顔を合わせるわけでもない。
「ごめん。迷惑かけて」一緒に働いてきた私の役割分は確実にみんなに迷惑をかけていることは重々に承知していた。
「いや。頼られたならやるしかないだろ」
「そう言ってくれたら嬉しい。関わった限りは良い結果出したいしね」
「やれるだろ。お前なら」そう言われるとなんだか少し照れくさくなった。
「それで。食事しに行かないか?」ギョッとして藤島に目を向ける。
「みんなで」最後にそう付け足されて肩から力が抜けた。
「了解。決まったら教えてよ」
「彼も誘おうかと思うがどう?」
「誰?」
「成見君」
「えっ?!」珍しく高く大きい声が出たらしくまじまじと見つめられて苦笑いするしかない。
最初のコメントを投稿しよう!