風と実

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馬鹿のようにデスクにかじりついて仕事をしている。 という風評。 コーヒーぐらいは飲む時間はある。 体を伸ばす時間ぐらいは持つようにしている。 ましてやトイレは当然のようにもよおせば足を運ぶ。 機械のような噂も当の本人はたかだかの人間で出来ることしか出来ないと思えば無駄な思考も浮かばなくなった。 たまの邪念がネックになることも多々あるが。 「ちょっといい?」ブラックコーヒーを自販機から取り出す僕の後ろから声がしたので振り向くこともなくその場を離れて邪魔になりそうもない場所を探した。 「ナリミ君」当たりを探るような言い回しなのは不安の裏返しかな。 振り向いて「はい」なんて応えると「良かった」満面の笑みを浮かべられるから面食らってしまった。 「名前ナリかナルか。迷った」 「よく言われる。どっちでもいいよ」どう呼ばれることにもこだわりもない。 「それより。申し訳ない。見たことあるんだけど」印象深い顔立ちと佇まいは記憶のどこかに引っかかっていて。 「オレ、藤島。藤島智。西野の同期の」 「あぁ。西野の」いい雰囲気に見えたエレベーターで見た彼か。 「で、どうしたの?何かありましたか?」成見が途端に優しそうな表情に変わるのを見て瞬間動きが止まってしまった。 「あっいや。なんだったっけ」 珍しく慌てる自分に少しだけ驚いた。 それも相手は男で同性なんだが。 「いつもブラック?」何を聞くのか思い出すまでのつなぎの言葉。 「たぶんね。藤島くんは?」 「オレはブラック飲めないから。もっぱら微糖」 「そうなんだ。まぁ缶コーヒーなんてどれもね」 「確かに」当然にそこに自販機があるからでわざわざ選択してまでじゃないな。 「言っておくけれど西野のこと。聞かれても答えようがないからね」こちらを見るわけでもなく成見は一気に飲んで空にしたらしい缶を音をさせないように静かにゴミ箱へ捨てる。 「高校で今まで会うこともなかったし最近になって顔合わせるようになっただけだからね。たぶん君や同僚の方が良く知ってるはずだよ」優しい笑みが目尻のしわをより深くさせる。 「では。お疲れさまでした」深々と頭を下げて横を通り過ぎていく。
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