風と実

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「大丈夫?」 そう声をかけられて我にかえる。 「あっ。大丈夫。大丈夫。全然。気にしないで」 出来るだけの笑顔でみんなを見て大げさに手を振った。 「なんかごめんね」 乾笑いして同僚と同じテーブルに戻る。 馬鹿にはしゃいじゃって自分らしくないのは分かるけど、そうでもしないと気持ち潰れてしまいそうで耐えられそうもなかった。 頭の中はぐちゃぐちゃになってる。 成見は私との関係を藤島が聞く前に「友達の友達なんだよな」と話したらしい。 「友達の友達」 愚かな私は成見をそう口にした。 高校生の頃に好きな先輩と付き合うことになって浮かれていた。 その彼が成見を気にしていたから思わず口から吐いてしまった。 無責任な言葉が28歳の今になって自分自身に跳ね返ってくる。 聞かれてた…胸が苦しい。 安野がいて真崎がいて成見がいた。 大事な友達だったのに少しずつ距離が空いたのは成見のせいじゃなかった。 「ごめん」用事思い出した。 イスから立ち上がり急いでその場を離れる。 笑えていたかわからないけど精一杯。 「いいやつだよ。西野は」満面の笑みで。 「たぶん。だけどね」仕事してて見たことなかったから藤島も驚くぐらい。 成見と話した藤島に「どうせ。いいこと言ってなかったでしょ」諦め気味に言ったら「全然」なんて。 友達だと思っていた私より、ちょっと前に声をかけた藤島の方が先に成見の笑顔を見たんだ。 トイレに駆け込んだ時には歪んだ視界からこぼれ落ちたもので頬が濡れていた。 ダメだな。 私は本当にダメな奴で、浮かれていいことなんてなかったのにどうしてこうもすぐにやらかしてしまうんだろ。 まわりを傷つけて結局は私自身も傷つけてしまうのに。
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