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「時間作ってくれない?」
目の前に見たことのある藤島が現れて真面目な顔してるのであまりいい話ではないのはわかった。
西野の同期でほとんど面識のない相手に時間を求めるなんて誰だって気付く。
「今?」
「できれば」
少しの遊びもない受け答え。
彼は口数が少ないようで貴重な昼休みなのにとは思ったが頷くしかない雰囲気。
連れてこられた場所にはすでに西野の同期なのだろう3人がいる。
綺麗に性別半分ずつ。
これはこれは…人数的には圧倒的に不利な状況なんだけどね。
「あんた。ちょっとふざけてる?顔笑ってるみたいなんだけど」
「そう?」自分の顔を片手でさする真似をするが目の前にいる気の強そうな女性は眉を片方あげてみせるぐらい。
「質問をされたところで帰す言葉は西野の問題としか言いようがない。西野が話さないならこっちから話すことはないし。もし笑っているように見えるなら申し訳ない」
西野の態度がおかしいのは知っている。
ただそれは上手く言葉にできないときのそれでまともに顔を合わせなかったり無駄に周囲に合わせて自分を主張させないようにしたりの類で要は逃げているだけ。
そのことを西野の同期は気にしている。
摩擦が起きないように周囲に気を配れる西野がただいるだけでしそうもない失敗を繰り返すなんてのはないことなんだろう。
西野は気付いているんだろうか。
君のために集まってくれる仲間のことを。
支えあえる仲間が西野にいたことに気付けて嬉しくなってしまったことが表情で漏れてしまっただけなんだ。
「良かった」
呟いたこっちを見て目を丸くする気の強そうな西野の同僚にはどう映ったはわからない。
僕はどうだっていい。
「近いうちに西野と話す。それでいい?」
「元のあの子に戻しなよ。じゃないと会社の雰囲気悪いからさ」
「出来るだけの努力はする」
本当なら僕のことなんてのは西野が憶えていただけ驚いたんだがたぶん原因はこれなんだろうな。
自分に後ろめたかったんだろう。
西野が好きじゃない言葉を自分で使ってしまった後悔から成見を憶えていたんだ。
じゃなければとっくのとうに記憶から消えていただろうから。
言葉の使い方を覚えなさい。何度も言われたな。
口にしてはいけない言葉が今の彼女を傷つけているとしたら出来ることをしなくてはならない。
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