風と実

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会社の同僚に成見を友達と紹介しようとした時も彼は自然と離れて距離を保った。 「友達の友達だろ」まるで当たり前のように私に言ってしまった言葉も成見の心のままで酷く傷つけられた気がしていたけれどそうじゃなかった。 「どうしたらいい?どうすれば元に戻れる?」 「わかんねぇよ。オレらだって何度も話したんだ。でもあいつは聞かない」 安野や真崎でも難しいことはある。 成見は難しい。 もっともらしく言うと知らなかった。 ここにいる誰よりも成見を知らなかった。 記憶の中の成見は高校生の頃の友達でしかなかった。 仲が良かった気がしてた。 大事な友達の1人だと思ってた。 一緒に笑ったし喧嘩もしたしいろんなこと話し合ってた気がしてた。 気がしてただけ。 成見は私のように大口開けて笑わず静かに側にいた。 成見は私が怒っているのに落ち着くまで側にいた。 成見は私がずっと話しているのを頷いて側にいた。 記憶の点が繋がるとわかる。 成見はいつも私たちの側にいたけれど彼は私と友達の友達という距離を置いていた。 なぜか悲しさより悔しさの方が増してきて涙ではない奥歯を噛みしめる私がいた。 何も言わない成見に腹が立ってしょうがなかった。 今、口に出せば真崎とケンカになるかもしれない。 安野とでさえ口を聞かなくなってしまうかもしれない。 事の発端は私のせいなのだから。 私が怒っていい場所なんてどこにも用意されてはいない。 でも。 私は彼を許せないでいる。 私のことをさも知ったように扱っている。 過去も現在も。 私が彼を知らないぐらい、彼だって私を知らないくせに。 自分だけ分かったふりして私とは向き合ってないくせに。 本当のことなんて置いてきぼりでなにも見せもしないくせに偉そうに何様だって。 成見のいないここじゃ叫びたい衝動も我慢するしかないけどね。
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