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「意地悪」
彼女にだけ聞こえるぐらいの小さい声に目配せする表情は嬉々としながらいたずらごころが溢れている。
そんな感じか。
もう1つ加えるなら本人が気付いていない感情も見え隠れ。
信じられる人じゃなきゃ対応は冷静でいようと感情をださないし。
恋愛感情があっても積極的に動くより前に周囲ばかりを気にする。
相手の動き一つで一喜一憂するから仕事してる方が楽とか簡単に口にする。
それを成見に注意されてふてくされる。
いつも受動的な西野。
いつもの彼女にいつも通りに接する成見。
良かろう悪かろうは何をするかしないかで彼女に彼が途端に怒り出す分岐点。
自分で決めなくてはならないことを出来るだけ避けてきた彼女自身のこれからなんて、どう転ぶかは後回し。
ずっと見てきた私としては目の前の人にだけ感情的になっていることは相当な進歩だと彼女の変化にほほえましく思えた。
「ユウのどこがシーサーに似てるか教えてほしいんだけどぉ?」
目がまったく笑ってない。
両手で成見の右手をしっかり握ったまま。
痛みに悶える成見は瞬間だけ西野を見てすぐに顔を伏せる。
彼女には悪いけど。
今のその顔は相当に笑える。
成見の言ってたことはあながち間違ってるとも言えない。
西野と成見の痴話げんか。
いや。西野だけの楽しい時間に成見が付き合っているだけか。
顔は大人しそうに見える。だけで、今の西野が正常だろうな。
こいつはしつこい。
こいつは根に持つ。
化けの皮を剥がせばこんなもん。
自分を可愛いと思っている節もあるしな。
知ってるオレにしてみたら安野や成見がいてようやくの友達レベル。
じゃなかったらまともに向き合う関係でもなかったろうに。
成見はそんな西野が逆に気になる。
安野もそう。
ほっとけないらしい。
「お前みたいなもんか」
ほんの少しほおを赤く染めてキツい顔してくる。
すぐに素直な笑みを浮かべる。
こんな顔も当たり前にするようになって。
すごく嬉しいんだが。
微かに燻るものも頭の片隅にないとは言えない。
そんな自分が情けないとは思う。
本当ならオレと安野だけで済む。
誰の手も借りなくても良い。
ちぇっ。
真横でテーブルに突っ伏したヤツに目が向いてしまう。
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