居酒屋が好き

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でも。 しっかり握られたはずの手を離そうとしたのは私の方で。 「ごめんなさい」 そんな時でも素直に謝ることさえ出来ない。 けれど。 もう一度。 その手を握ってくれた。 「オレだけリリのこと、わかってるって感じだろ」 しっかりと。 「痛いって」 強くて痛いけれど。 「勝手に離れるなよ」 うん。 「これからは不安にさせないからさ」 頭一つ上にある真崎は私を見てはいない。 見上げたら信じるに余りあるほど胸のすく横顔で。 こんなにいい男なのに。 なんてすぐに頭の中を横切っても。 両腕を強く真崎に絡める。 「離れたくない。とかいってもいいのかな」 私なんかでも。 「いいんじゃね」 そう言って優しく頭を撫でられる。 偉そうに。 なんて思いも浮かんで心の中で呆れた。 らしい私はこんなもの。 大きくなんて変わらないのかもしれない。 それでもあなたを愛するようになって。 同じくらい私のお腹の子を愛する気持ちが日に日に強くなって。 不安ばかりもあなたとならどうにかなるかもしれないなんて。 少しは私も私自身を愛せているのかもしれない。 「なんだよ。寝てんじゃねえか。結局。おい起きろ。おい」 真崎に揺すられてる眠りに入った成見に「ユウの勝ち」なんてガッツポーズする西野。 「勝ちとかねぇから。マジ寝させんなよ」 「えー。寝ないとか言ってたのナリだし」 「あんたがナリの弱いとこ攻めるからでしょ」 「されたままの方が悪いじゃん」二人に責められて西野は唇をとがらせた。 「っていうか西野。ここ」真崎は人差し指で自分の眉間あたりをくるくるなぞるようにして「今のこの辺。そっくりじゃね」言われて速攻で手のひらで隠す仕草。 口の端を上げる真崎を睨みつけて目の前の置き物とテーブルに突っ伏して頭の上しか見えない成見に目を向ける。 眉が寄ってる西野とシーサー。 イコールを成見以外に当てられて自分自身ももはや似ているのかもしれない。なんて思っている行動に西野はハッとしてしまった。 何に流されているんだか。
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