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今日も接点が無かった。話しかけるきっかけが欲しいと溜息混じりに帰途につく。
と、信号の所でまごついている老婆を見かけた。僕はすかさず駆け寄り、
「大丈夫ですか? 荷物、持ちましょうか?」
と声を掛けた。老婆はびっくりした顔をしていたが、僕の厚意を素直に受け取ってくれた。
「ありがとうよ。助かったわ~。今日に限って荷物が重たくなっちゃって。あんた、最近の若いもんにしちゃ立派だねぇ」
信号を渡りきった所で御礼を言われた。褒められるって事に慣れていないもので、どう扱ったらいいか分からないでいると、
「何か御礼しなきゃね」
と、ごそごそとポケットを漁り始める老婆。
「そんな、そういうつもりでやったんじゃないんです。やめてください」
「いいねぇ。謙虚な所がますます気に入った。ん! これがあったね」
笑顔の老婆が取り出したのは、一つの飴玉だった。
その飴玉について、得意気に語り出す。
「この飴玉はちょいと特殊でね。人の心が見えるようになるのさ」
「人の心が?」
そんなバカな、という心よりも、そんなものがあって欲しいという気持ちの方が勝った。
「ま、効果は一ヶ月ばかり、見え方はちょいと特殊なんだけどね。あんたのような子なら、変な使い方もするまい」
「お婆さんは一体……?」
僕の質問に、老婆はにやりと笑い、小さな声で教えてくれた。
「あたしゃこの一帯では名の知れた魔女だったのさ。今は力を失って、ただのよぼよぼのお婆さんだけどね」
本気とも、冗談とも取れない言葉。
呆然とする僕を後目に、老婆は重たい荷物を抱えたまま去っていった。
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