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放課後、忘れ物を取りに教室に戻ると、彼女が一人、日直の日誌を書いていた。他に誰もいない。
思わず身じろぐ。そして、声を掛けるチャンスだと思うと、ドキドキする。
「あ、あの~」
「わっ」
我ながら最高に間抜けな声のかけ方。ほら見ろ、彼女もびっくりしてるじゃないか。
「何だ、宿木君か。どうしたの?」
書く手を止めて、振り返る。彼女の胸の花は、相変わらずラフレシア。
「ちょ、ちょっと話があるんだけど、いい?」
落ち着けー、落ち着け自分。動揺なんて見せるな。
ここ数日の花観察で、分かった事がある。感情のリアルタイムの動きと共に、花は種類や色を変える。だから、告白しないまでも、好意を匂わせる事で彼女の心が見えるはずだ。今日はそれを確認するだけだ。その為の絶好のチャンスだ。
「うん、いいよ。何?」
椅子を動かして、改めて向き合うように座ってくれる赤熊さん。目と目が合う。胸元の花は……ううん?見た事も無い花が咲いている?しかしそれを調べる余裕なんて無い。
言葉を続けなきゃ。沈黙はまずい。何か話さないと……何か……しかし可愛いな、赤熊さん。
「好きです」
真っ白になった僕の頭が何とか捻り出した言葉は、先程まで頭の中にあった作戦を土台ごと吹っ飛ばした。
「へ!?」
「あ! いや! 違くて! いや、違わない……いや! 何でもない! じゃ、じゃね!」
動揺なんてもんじゃない。パニックだ。恐慌だ。ここは早く誤魔化してこの場を立ち去らねば!
手足をばたつかせながら、必死にごまかして逃げ出す。
「ちょ、ちょっと!?」
彼女のびっくりしたような呼び掛けに一瞬目をやる。そして冷や水がぶっかけられた気持ちになる。
あぁ、あの彼女の胸元の花は……
心に大きな棘が刺さったまま、僕は帰り道を猛ダッシュで駆け抜けた。
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