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────クロエが理科室から出てゆく音を確かめてから、唯は大きく溜め息をついた。
「どうした俺…」
あの少女のことが、どうにも可愛らしくて仕方がない。
無論、容姿は可愛らしいし、人形のように美しいのだが、違う。
仕草や、言葉、それに高慢な雰囲気とは裏腹に、あどけない笑顔。
ただ一緒に食事をするだけで、有り得ないくらいに胸が高鳴る。
いや、本当にありえない。
今まで実を言えば女生徒に恋の告白をされたことが幾度かあった。
だが、どう捉えても生徒としか、子供としか思えなかったし、例えば彼女達が卒業しても恋人にしたいなどとは思わなかった。
そもそも唯は、恋愛そのものを避けているところがあった。
なのに。
姫園クロエ。
その少女が自分の元に、わざわざこの部屋に来る、ただそれだけでひどく嬉しい。
暖かい気持ちになる。
同時に訳がわからないが、落ち着かない。
宝石の様な瞳で見つめられれば、息がうまくできなくなる気もする。
「…本当に、まさかだよな…ありえない。ありえん」
けれど
そんな風に考え込んでしまっていること自体が、その事実への証拠ではないのか。
────ピアスを空けると落ち着く。
痛みで気持ちが落ち着く?
どうして?
寄り添いたい。
苦しさを抱えているなら、それに触れてみたい。
「マジかよ…」
そうか、あの日、お御堂の裏の桜の木の下で彼女を見つけた日から、それとも言葉を交わした日から?
目が離せなかった。
単に毛色の違った生徒だから、そんな理由だけではなく。
自分はクロエに惹かれていたのだ、と認めざるをえなかった。
「どうすんだ、これ…」
惚れてしまった、恋愛感情を持ってしまった。
授業の準備をしなければならないことは頭からぶっ飛んでいた。
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