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それからその日の3時限目。
小日向唯が、B組で正式に教科書を手にして理科の授業をする最初の時間となった。
「じゃあえーっと、四行目から、相田、読んで」
眼鏡をかけた女子生徒が立ち上がり、指定された文を音読する。
クロエは半ば怖いもの見たさで小日向を観察した。
背丈は170の後半はある。
短くも長くもないくらいの、柔らかそうな黒髪。
切れ長だが、くっきりとした二重の目。
薄めの唇は、今はほんの少し笑みの形を作っている。
教科書を持つ右手は、少し関節が目立つが指が長い。
「はい、いいよ、ありがとう」
声は、至極穏やかで、むしろ耳触りは悪くない。
??
本当に、どうしてこの教師が恐いのか全くもって解らなかった。
苦手、とも違う。
ましてや嫌い、でもない。
目線は、自然に彼の方に向かう。
ああ、また目が合ったら癪だわ。
そう思って机に突っ伏した。
「姫園~、まだ午前中だから昼寝には早いからな」
「……」
思惑が裏目に出た。
不機嫌な表情で頭を上げると、それを見て小日向は呆れ気味に言った。
「怒りたいのは俺の方だから」
ふいっと視線をそらし、教科書を見ることにした。
これなら文句はないだろう。
結局その授業中クロエは教科書だけを見つめていた。
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