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四月のある日。
ここは俗に言う、ミッション系の私立高、妃が丘高等学校。
五年前にここに赴任してきた、小日向唯(コヒナタユイ)。ゆい、と可愛い名前の響きだが男性である。
彼はちょうどその五年前、妃が丘が女子高から共学にチェンジしたころに教鞭を執ることになった。
担当科目は理科で、現在28歳だ。
今日は新入生を迎える入学式。
桜は、もう若干散り始めていた。
「小日向先生」
「あ、三浦さん」
数学担当の初老を迎えた男性教師が、唯を呼び止めた。
「やっと男子生徒が増えて来ましたね」
三浦は温和な笑みを浮かべて、唯を見上げた。
「だけどもまぁ、また今年も小日向先生のファンが増えるんでしょうねぇ」
大変ですねぇ、と人好きのする笑みで先輩教員は言う。
男前で、女生徒から人気のある唯だが、特別自覚があるわけではないので、苦く笑うしかない。友人には「JKに囲まれるとか最高じゃん」、などと言う不埒者もいるが、何をどうしたら生徒を恋愛対象に見ることができるのか…
「単におっさんが大人びて見えるんじゃないでしょうか。何であれ、遊び半分なんですから」
言って腕時計を確認した。
「まだ、式まで時間ありますね。迷っている生徒がいないか、ちょっと廻ってみます」
はい、と三浦に言われ唯は春の香りのする校庭を歩き始めた。
そうだ、裏庭…。
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