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キャンプファイヤーの炎が赤く辺りを明るくする。
卯月はクロエを探した。
──だから、理科の授業では居眠りをしないんですね
思い返せば、唯が教室にいる時、クロエは保健室にサボタージュしに行くこともない。
煌々と燃える炎の周りを、卯月は急ぎ足に、キョロキョロした。
クロエは皆の輪から離れて、テディベアを片腕に座っていた。
「…姫園さん」
「卯月。ねえ、大きな炎って、魔女狩りの火あぶりを想像しちゃわない?」
しないですよ…
せいぜいバーベキューしたいなぁ、位です。
卯月はそっとクロエの隣に体育座りした。
クロエは特になにも喋らない。
卯月も口を結んだまま、ただ少し遠い炎を眺めている。
どう、切り出したら良いのか───
炎から目を逸らし、クロエの横顔を見た。
初めてクロエの存在を知ったのは、入試の時で、まだ中学生だった。
なんて素敵な女の子だろうと、試験で緊張しているはずなのにそれとは別にドキドキした。強く憧れた。
妃が丘に合格して、新入生として1-Bのクラスに、同じクラスにクロエがいて、毎日姿を見れるのが嬉しかった。
席替えで隣の席になって、忘れもしない、文化祭の話し合いの日───
「どうしたの?」
「……」
「卯月?なにかあったの?大丈夫?」
クロエを見つめたまま、彼女の両手を握った。
「姫園さん、相田は、なんの取り柄もないし、冴えないし…。姫園さんが、倒れた時も、なにもできなかったです。それでも…姫園さんが大好きです」
クロエは握られた手に目を落とした。卯月が泣き出しそうなのがわかって、それでも黙って言葉を聴く。
「なんの役にも立てないかもしれないです。でも、でも、相田は姫園さんのお友達になれたと、勝手に思ってます」
クロエは口を開かないまま頷いた。
「誰にも言いません。でも、応援させて下さい…」
震える手を、今度はクロエが握り返した。
「いつ判ったの?」
「ついさっき、です」
何かを考えているのか、クロエは顔をを斜め上に向けた。それから、「ああ」と小さく声を出した。
「あのね、卯月。前にも言ったけど、卯月は素敵な女の子よ。私も卯月が大好き…。仲良くなれて、嬉しい」
目が潤んで視界がぼやけて、クロエの顔がよく見えない。
「倒れた時にずっと傍にいてくれたでしょ。色んな気持ちで、卯月と友達になれたことを、誇りに思う」
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