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────入学式が終わり、その少女、姫園クロエ(ヒメゾノクロエ)は、とりあえず教室にのろのろと向かった。 今年からこの妃が丘に通うことになったのだが、さしてやりたいことがあるとか、勉学に励みたいとかの理由ではなかった。 ある、惹かれる建物があったからだ。 古びたお御堂。 それを中学生のときにたまたま見かけた。 綺麗だと思った。 単にそれだけを気にいって、受験をして受かった。 それ以外は本当にどうでもいい。 制服は趣味ではないし。 だから、お気に入りのゴシックロリータ調のセーラーワンピースを制服替わりにしている始末。 教室に着き、自分の名前が書かれた席に着くなり、今では時代錯誤のCDウォークマンを鞄(これもまた学校指定ではない)から取り出しイヤホンを耳に当てた。 バッハのマタイ受難曲が心地良い音量で流れる。 そうして、ぼんやり窓の外を眺めているうちに二人の教師が教室に入ってきたのだが、クロエは気づかなかった。
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